砂漠を抜け、荒れ果てた荒野を南下して町に着く。
町までの道のりで、死霊の騎士、フーセンドラゴンと2戦したが、2戦共辛勝だった。全滅してもおかしくなかっただろう。
戦闘開始直後ヘンリーが一人突っ込み、俺が攻撃呪文で援護し、ダメージを蓄積させていく。
敵の動きが鈍くなった所で、カンダタがとどめの一撃を与え勝利、という戦法だ。
ヘンリーが一番危険な役だが、そこは俺の援護でフォローしなければいけない。つまり俺も戦闘中は一秒たりとも気を抜けないのだ。
敵の動きが鈍るまでカンダタはピクリとも動かない。一人だけ楽な役を勤めている気がする。なんだか腑に落ちない。
町は、まだ崩壊してはいなかった。
人々の顔は恐怖と絶望に満ちているが、それでも、魔族に襲われていないだけマシだろう。
今日はここで一泊する事にする。魔物と2戦して、俺達は満身創痍だ。魔力は切れ、身体も傷だらけである。
ヘンリーとカンダタが宿に向かう。俺はその前に装備を整える事にした。

「…いらっしゃい。」
ツノマスクを被った半裸の主人が掠れた声をあげる。
主人の顔はやつれ、魂が抜けた様に空虚を見つめていた。
「まだ魔族に刃向かおうとしてる奴がいるんだな…。ま、俺もその莫迦のお陰で生活できてるんだけどな…。」
俺は、無言で壁にかけられた装備を見渡す。
確かに莫迦かもしれない。ゲマの部下に一撃でやられて、それでもまだ抵抗しようとしているのだから。
だが、抵抗しなくても結局は魔族に滅ぼされるんだ。寧ろ抵抗しない方が、莫迦なのではないのだろうか。
人は、晴れ渡る青い空に輝く眩しい陽の光を、忘れてしまったのだろうか…。
俺は、シルバーメイルと風の帽子を選び、カウンターに持っていく。
「…2点で9800Gだな。」
俺は先程ヘンリーに貰った10000Gを払う。お釣りを貰い、俺は無言で店を出た。主人も同じく、俺にお釣りを渡した後口を開く事はなかった。

夜、宿の食堂で夕食を取る。
俺達は会話する事無く、重々しい空気の中黙々と料理を口に運んでいた。
そのまま、誰一人口を開く事無く夕食を終える。
そしてその後入浴し、3人共寝室でそれぞれ別の事をしていた。
カンダタは自分の斧を磨き、ヘンリーは物思いに耽り、俺は呪文書を黙々と読んでいた。
港町で拾った呪文書だが、これは上級呪文以上はほとんど載っていない。完璧な書物ではないのだ。
まあ、それでもこの書物から学ぶ事はある。ギラの中級呪文ベギラマ、スカラの上級呪文スクルト、敵の防御力を低下させる呪文ルカニ。俺が習得していない呪文はまだまだある。
それに、特技も開発した方が良いだろう。強力で、尚且つ使い勝手の良い特技。簡単に編み出せるとは思えないが…。
「お前達…聞いてくれ。」
村に着いてから今まで続いていた沈黙を、ヘンリーが破る。
先程まで両手を組んで口元に置き、目を瞑ってベッドに座っていたヘンリーが、細く目を開いていた。
「俺は明日町を出て、ここから遥か東にある海辺の村に向かう。…魔王城が聳え立つ島に最も近い村だ。」
魔王城から、最も近い?
明らかにその海辺の村と言う村に何かありそうだ。一体、海辺の村には何があるのだろうか。ヘンリーの次の発言までの間、僅かな緊張が俺の心を駆け巡る。
「1ヶ月後、その村には世界中から腕に自信がある者達が集まるだろう。魔物と対等か、それ以上に戦える者達が。」
「…遂に、魔族が決着をつけに来るか。」
ヘンリーの話を聞いていないかの様に斧を磨き続けていたカンダタが、視線を斧にやりながら独り言の様に話す。
「察しの通りだ。1ヶ月後に、海辺の村に魔族が攻めてくる。…今まで村や町を潰してきた数十の部隊の中で、最も強い2部隊がな。」
ヘンリーは呼吸をしていないかの如く、絶え間なく話を続ける。 

「魔王ミルドラースの側近イブールが、わざわざ言ってきたんだ。『未だ抵抗する愚かな戦士達をここで抹消させる為、数十ある魔族の部隊から精鋭されたジャミ、ゴンズ率いる2部隊が、人間と魔族の決着をつけに海辺の村へいく。覚悟しておけ』とな。」
「人間と魔族の大決戦か…。面白いじゃねえか。」
カンダタが、フッフッフと不敵に笑う。余裕があるのか、もう諦めたのかは分からない。
そんな事より、俺はヘンリーの発言の中にあった二つの言葉が脳に響いて離れなかった。
―――――ジャミと、ゴンズ。
忘れない。いや、忘れられない。
デモンズタワーで戦ったゲマ直属の部下だ。ボロンゴ達を、一撃で気絶させてしまった奴ら。
あいつらと戦うのか。そうか…。
俺の中から、何かとても危険な感情が生まれた、そんな気がした。
「ここで挑発に乗ってしまうと戦士達が全滅し、人類の歴史は本当に終わってしまうかもしれない。だが、どちらにしろいつか魔族とは決着をつけないといけないんだ。ここで逃げる訳にはいかない…。」
ヘンリーが右拳を強く握る。
どうやらヘンリーは覚悟を決めている様だ。1ヶ月後、人類の運命は決まってしまうと言う事か。
「お前達、この決戦に参加してくれないか?一人でも多くの力が必要なんだ。」
「当然参加させて貰うぜ。人類の運命がかかっているのに、黙っていられるかよ。」
カンダタが勢い良く斧を振るう。
「ありがとう、カンダタ。…お前は、どうする?」
カンダタに視線を向けていたヘンリーが、こちらを見る。
俺の意志は、聞かれる前から既に定まっていた。
俺の中の選択肢という天秤は、片方には欠片も重さがなかった。
「…俺も参加する。」
俺は拳を強く握る。その拳は、ガタガタと大きく震えていた。
ボロンゴ達は死んではいないが、仇…それに近い感情があった。
今は感情を抑えているが、奴らを目の前にしたら暴走………奴らを殺した後も、只管攻撃し続けるかもしれない。
それだけ、あいつらが憎い。倒したい。――――――――――殺したい。

「ありがとう………仲間は多い方が有利だ。少なくとも今の時点では、世界に名を轟かせる程の実力者が10人はいないと、勝つのは難しい。」
10人か…そんなに来てくれるのだろうか。
現時点で確実に参加するのは3人。後7人も…参加してくれる者がいればいいのだが。
まあ泣いても笑っても後1ヶ月だ。俺ができる事は、只管修行に励む事だけだ。
見てろよ…ジャミ、ゴンズ…。俺は強くなる…誰よりも強くなってやる…。そして…必ず…勝つ!
架空の人物の台詞をパクってしまった。シリアス度が下がるじゃねーか。



夜が明ける。
俺はほとんど寝付けなかった。決戦の事を考えていて、目が冴えてしまった。
昨日は偉そうに言っていたが、実際良く考えてみると俺はとんでもない事をしようとしてるんだよな…。
一撃でやられた奴を、1ヶ月の修行で倒そうとしているんだ。
しかも10年も経ち、奴らも相当強くなっているだろう。俺のやろうとしている事が、無謀な行為と言われても仕方ない。
目が冴えて眠れないので、ベッドから起き上がり、辺りを見渡す。その時、ある異変に気付いた。
ヘンリーの隣のベッドにはカンダタがおらず、布団が綺麗に片付けられていた。もう起きたのだろうか。
どうも気になったので、部屋を出ようとする。
その時、扉の横にある机に、一枚の手紙が置いてあるのに気がついた。
手紙を読んでみると、そこにはこう書かれていた。 

『突然出て行ってすまないと思っている。昨日から俺が偽っていた事、隠していた事をここに書き残す。まず、俺は子分を探して旅をしていると言ったが、あれは嘘だ。
俺の子分は全員数年前に死んでしまった。魔物から俺をかばってな。本当の俺の旅の目的は、ただ魔族の刺客から逃げているだけだ。数年前、子分が全員死んだ時の戦いで、ヘルバトラーと言う魔族の中でも位の高い奴を殺しちまった。
それ以来、俺は魔族に命を狙われているんだ。お前達は俺といると危険だ。だから、俺は一人で行く事にする。魔族との決戦については、1ヶ月後に俺が生きていたなら必ず参加する。これは男の約束だ。守らせてもらう。
じゃあ、1ヶ月後にまた会おう。絶対に死ぬなよ。 カンダタ』

カンダタ…。
だからヘンリーが一緒に行こうと言った時に戸惑ったのか。
あんな変態の様な格好で、パンツマンダンスの如くブンブンと斧を振っているが、奴も苦労しているんだな…。
いかん目頭が熱くなってしまった。バカでも苦労していると言う事を知って、感動してしまった。
「もう起きてたのか。」
突然話し掛けられ、驚きでピクっと肩が震える。
後ろを振り向くと、ヘンリーがベッドから身体を起こし、眠たそうな目を擦っていた。
「どうした?そんな所で。」
俺は、黙ってヘンリーに手紙を見せた。

「そうか…そういう事情なら仕方ないだろう。1ヶ月後に、生きている事を期待するしかない。」
ヘンリーは机に手紙を置き、着替えが置いてあるタンスを開けて中を漁った。
「予定変更だ。暫くこの町にとどまろう。」
ヘンリーがみかわしの服に着替えながら言う。
「この町に?」
「ああ。3人行動でも全滅する危険があったんだ。2人で行動など、危なすぎる。暫くこの町で修行してから海辺の村に行こう。3日もあれば着くから問題ない。」
成る程。確かにその通りだ。
魔物と決戦する前に死んでしまったら、それこそ無意味だろう。
それにヘンリーの方が剣術に長けているので俺としても学ぶ事も多い。俺は了承した。
「よし、じゃあどこか町で広い場所を探そう。」 

数十分後、俺達は井戸の中にいた。
井戸は修行するには十分な広さで、タンスや机、電気が設置されてある。
町の人にどこか場所はないか聞くと、魔物が攻めて来た時隠れる為に作られた井戸の中を使って良いと言った。
時間が惜しいので、俺とヘンリーは井戸に降りた後すぐにお互い剣を抜く。
「手加減はなしだ…。本気で斬らせてもらう。だからお前も本気で来い。」
ヘンリーは真顔で俺を睨む。俺もそれに答えるかのように、睨み返す。
ヘンリーと戦った事はないが…俺の方が不利なのは明らかだ。少ない脳をフルに働かせていくか。
「行くぞ!」
そう言った刹那。
俺の眼前に、ヘンリーの顔が現れる。
ヘンリーは剣を強く握り締め、思い切り剣を横に振る。
俺は上半身を後ろに退き、間一髪で避ける。
…いや、命中した。俺の右の頬から、僅かに血が流れる。
ヘンリーの剣先が、俺の頬を掠めたのだ。
ヤバイ。本当に本気だ。俺は致命傷は避けて攻撃すると解釈していたが、ヘンリーは情け容赦なく攻撃する。
「はぁ!」
ヘンリーが、更に剣を振る。
今度は、直撃した。俺の左脇腹が、ヘンリーの破邪の剣によって斬られる。
俺の左脇腹から、大量の血が流れる。赤い血が。
ヘンリーが、俺を攻撃している。敵対視している。その証拠に、既に2撃も攻撃をくらってしまった。
これは、まだこの世界に慣れていない俺に、甘さは命取りと言う事を教えているのだろうか。
…ならば、それに応えようか。………くらえ!
「バギマ!!」
次の瞬間、巨大な竜巻が現れ、風の刃が身を切り刻む。
………ヘンリーと俺の。
しまった、ヘンリーと密着していたから、俺もくらってしまった。なんて事だ。

ヘンリーと俺は同時に倒れるが、ヘンリーは何事もなかったかのように立ち上がる。
「呪文は万能じゃないぞ!こう使うんだ!…イオラ!」
俺の周りに熱風が巻き起こったかと思うと、突然激しく爆発する。
やはり中級呪文だ。イオの比ではない。俺は激しい痛みで、その場に倒れたまま全く動けない。
…これが魔物との戦いなら、俺はここでゲームオーバーなのだろう。
あまりにも、格が違いすぎる。
確かにヘンリーとは実力差があると思っていた。しかし、まさかこれ程までとは…。
しかも、そのヘンリーでも魔物と一対一では互角には戦えない。つまり、俺程度が魔物と戦えば死は確実だ。
更に、1ヶ月後にはその魔物が何十にも集結した部隊と、その部隊長ジャミ、ゴンズと戦うんだ。
最早絶望的だ。俺が今から勉強して、東大に一発合格するより絶望的であろう。
「どうした?回復しないのか?お前には回復呪文があるだろう。」
俺を見下すかの様に見下ろすヘンリーが、そう言う。
回復呪文か…なんかもうしんどいな…。このまま死んでもいいよ…。
俺はこのまま寝…ようと思ったが、それでは決戦に参加すると約束したヘンリー達に余りに悪いので、俺は渋々ベホイミで回復した。
「さあ、第二回戦だ。」
再び、剣を構えてヘンリーと対峙する。
先程と同じく、ヘンリーは速攻で斬りかかってきた。
動きが全く見えない俺は、ヘンリーにいいように斬られる。
「どうした!それで終わりか!」
ヘンリーは踊り子の如く華麗に動き、隙を見つけては俺に攻撃する。剣の舞、と言った所か。
これでは先程と同じだ。ダメだ。ヤケクソでも突っ込んでやる。
「素人にはお勧めできない…。」
「え?」
俺はギラリと眼を光らせ、ヘンリーを睨みつけた。

「諸刃の剣!!!!!」
俺は両手で剣を強く握り締め、大きく剣を振りかぶってヘンリーに特攻する。
ヘンリーの目の前まで走り、力の限り剣を振り下ろした。
「うわっ!!」
紙一重で俺の攻撃を避けるヘンリー。俺は勢い余って自分の左足を斬ってしまった。
左足から血がドクドクと出る。自業自得だ。俺が馬鹿だった。今は反省している。
「恐ろしい技だ…本当に諸刃の剣だな。」
ヘンリーの目が必死だった。掠りもしなかったが、驚かせる事は出来た様だ。…虚しい。
その後、自分の身体をベホイミで無理矢理回復させ、夕方までヘンリーと戦い続けた。
その日の宿のある部屋では、ボロボロになって泥の様に眠る者と、無傷で眠る者と言う二つの光景が見られた。

魔族との決戦まで、あと30日

Lv20
HP1/103
MP0/45
武器:破邪の剣 鎧:シルバーメイル 兜:風の帽子
呪文;ホイミ、ベホイミ、バギ、バギマ、ギラ、スカラ
特技:はやぶさ斬り、火炎斬り、諸刃斬り、正拳突き

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