大きくて力強い腕が俺を抱き上げた。 そしてそのままその腕の持ち主の頭よりも高く掲げる。 俺は泣いていた。 悲しい訳でも、嬉しい訳でもなかった。 ただその誰もがそうであるように、 この世界に生まれ落ちた証を刻むように大きく呼吸をしていた。 大きな腕の持ち主は大きな声で何か言うと、 暖かくて柔らかいものの上に俺をそっと横たえる。 それを確かめるように今度は、細くて暖かい指先が俺の頬をなでた。 同じように細い指先の持ち主も俺に何か語りかける。 言葉は聞き取れたが、その意味は分からなかった。 ただ、それが愛するものへの慈しみを含んでいる事だけは分かった。 俺は泣いていた。 泣く事しかできなかった。 大きな腕の持ち主と、細い指の持ち主は幾つかの言葉を交わし、 俺は泣きながらただそれを聞いていた。 暖かい布に包まれて世界がゆっくりと揺れだした。 体中に響くような、落ち着かせるような定期的な揺れと 右側から聞こえる定期的に刻まれる音…心音が、 次第に俺の意識を奪い、白く靄ける景色は少しずつ遠ざかって行く。 まだだ。 まだあの場所にいたい。 必死で伸ばそうとした手を嗜めるように、細い指先が 俺の信じられない程小さな手を握った。 視界が白い明かりに包まれて、やがてのぼせて意識を失う時のように、 光が散り散りになって暗闇に吸い込まれて行く。 そして世界は暗転する。 目覚め...